15.ぼくのともだち










稽古終わりの身体はまるで鉛のように重くて、横尾は控え室に戻るなりソファーの上にドサリと身体を横たえた。
手にしていたタオルで顔を覆い、大きく息を吐き出す。
暑くて敵わなかったから転がったまま足を持ち上げて振ると、稽古用の靴をそこら辺に落として脱いでいく。
裏返しになって床に散乱するそれらを、共に帰ってきた飯田が呆れたように見た。

「横尾さん」
「んー・・・?」

タオルで顔を覆ったままだからくぐもった声。
こちらを見もしない。

「脱ぐならちゃんと脱ぎなよ」

そう言いながら飯田は脱ぎ散らかされた靴を手に取り、揃えてソファーの下に置いてやる。
チラリと横目でそちらを見ても、顔は依然としてタオルに覆われたまま曖昧な返事しか返ってこない。
稽古後に横尾がへばっているのは割とよくあることではあるのだけれども、勿論それだけではないことくらい、飯田にはわかる。

「・・・横尾さーん」
「あー・・・?」
「今日、この後ご飯行こうよーって、北山が言ってた。藤ヶ谷も入れて四人で」
「あー・・・」

気のない返事。
気乗りしないであろうことなんて最初からわかっていたけれど、今は声をかけることに意味がある。
今横尾を取り巻く複雑過ぎる状況を考えれば、逆にそんな単純なことくらいしかできない。

「たまには美味しいもの食べにいこうよ」
「そうだなー・・・」

そう声をかけてもやはり大した反応はなかった。
けれどそれに気分を害した様子もなく、飯田は軽く眉を下げるだけで私服に着替え始める。
畳んでおいたシャツを手に裾を通し、ジーパンを履く。
特に会話もなく静かな部屋。
そろそろ北山と藤ヶ谷も帰ってくるだろうから、すぐさまこんな静寂は破られるだろうけれども。

「・・・いいだー」
「うん?なに?」

不意に呼ばれてそちらを見る。
横尾はやはり未だソファーに横たわりタオルで顔を覆ったまま、少しだけくぐもって聞こえる声で淡々と呟いた。

「俺とお前って、友達かな」
「ああー・・・まぁ、そうなんじゃない?」
「なんだよ、適当だな」

少しだけ不満気な響き。
どうせどんな答えだって大して納得しないだろうにね。
そんなことを思って飯田は表情だけでうっすら笑って、化粧台の前にあったパイプ椅子を持ってきてソファーの前に置き、腰を下ろした。

「じゃあ・・・絶対何があっても友達だよ!って言った方がよかった?」
「・・・そんな暑苦しいお前ヤダ」
「横尾さんわがまま」
「そんな飯田きもちわりー」
「ちょっと言い過ぎじゃない?」
「お前相手に言い過ぎとかないから」
「横暴だなー」

そんな他愛もない言い合いをしながらも、飯田はじっと横尾を見ていた。
その言葉を一言たりとも聞き逃さないようにしようと思っていた。
何故なら、今日こそが横尾にとって区切りの日になるであろうことは、飯田にも薄々感じられたからだ。
今日稽古に出た近しい人間ならなんとなくわかることだった。
五関と河合の間にある空気が、確かに変わったこと。
そしてそれが横尾にとっては何を意味するのか。
深く考えることはしたくなかった。
だからこそ今飯田は特に何をするでもなく、ここにいるだけだ。
今横尾に必要なのは、たぶんそれだけだ。

「じゃあ俺とあいつは・・・友達だったのかな」

そのタオルで覆われた顔を上から押さえ付けるように、その大きな手が更に被せられる。
声は更にくぐもって聞こえた。

「・・・今も友達、でしょ?」
「少なくとも、今はもう違う・・・」
「違うの?友達辞めちゃったの?」
「バーカ。・・・・・・誰が自分のこと無理矢理ヤろうとした奴を、友達だって思うよ?」

自嘲気味に聞こえる言葉。
けれどそうじゃない。
自嘲なんかよりも、本当はもっと単純な。
それは恐れだ。
相手を失うことへの恐れ。

「・・・そんな酷いこと、しちゃったんだ?」
「したも同然だよ。あいつが五関くんのこと好きで好きでどうしようもないことくらい、わかってたのにさ。それ無理矢理押さえ付けて・・・」

そんなことをしようとしてしまう程に、そのくらい好きだったんだと。
けれど横尾はもうそんな風に言うことすらできないのだ。
親友を失う恐怖に支配されて。

「憎まれる覚悟くらいできてると思ってた。恨んでいいよって、威勢よくそう言ってみたりもした。・・・でも、だめだわ」
「横尾・・・」
「ようやく、二人が上手くいってさ、よかったなって本気で思うのもほんとだけどさ。でも俺はもう、あいつにそれを言ってやることすらできない場所にきちゃってんだよ・・・」

友達というポジションを踏み越えて、それを壊してでも欲しいと思ったあの瞬間は決して嘘じゃない。
けれど、傷つけられない傷つけたくない守ってやりたい幸せになって欲しい・・・そう思って躊躇した瞬間も本当だった。

結果として最後の一線は越えなかった。
けれどその結果は、愛情を友情が上回ったものだなんて、そんな都合の良い言い訳はしたくない。
ただ自分のせいで泣くのを見るのが耐えられなかっただけ。
それでもいまさらになくしたくないと思っただけ。

「でもさ、遅かったな・・・」

あの時、河合は必死に自分との友情を繋ぎ止めようとしてくれていたのに、遅かった。
友達だと必死に縋りつく小柄な手をベッドに押さえ付けて縫いつけて、唇を塞いだあの瞬間が忘れられない。
あの瞬間こそが、自分達の培ってきた友情という名の絆が粉々になった時だっただろう。
自分のやったことで結局よかったことなんて、結果として五関が自分から動かざるを得ないようにけしかけたくらいだ。

「友達なくすのって、失恋すんのより、きっついかもな・・・」

タオル越しに思わず乾いた笑い声が漏れた。
それはむしろ失恋と同時に友達をなくしたという言い方が正しいかもしれない。
だとしたら、親友に恋をするということは、なんとも辛い茨道だ。

「・・・横尾さん、また河合泣かせたいの?」

声の大きさは小さいながら、それは確かにはっきり聞こえた。
けれどそれを言った飯田の顔が想像できなくて、横尾は思わずタオルをとってそちらを見た。
するとその顔は穏やかに笑んでいた。
いつもと変わらぬその笑顔。

「そんなこと言ったら、また泣いちゃうと思うよ」
「・・・なんでだよ」
「なんでって、決まってると思うんだけど・・・」
「なんで決まってんだよ」

思わずむっつりと眉根を寄せて低く返す。
けれどそんな様に、飯田は今度はおかしそうに笑う。
その時控え室のドアが叩かれる音がした。

「あ、二人も帰ってきたかな」

飯田はそんなことをのんびりと言いながらドアの方に向かう。
けれど北山と藤ヶ谷ならわざわざノックなんてするわけがない。
自分の控え室なのだから。
緩慢になっている思考でようやくそこまで思い至った横尾を後目に、飯田はドアを少しだけ開けて顔を覗かせながら訪問者を見ると、そちらにふわりと笑ってみせた。
まるであらかじめその相手の訪問を見越していたかのような反応だ。

思わず起きあがってぽかんとそちらを見ている横尾の方に、飯田は一度顔だけで振り返る。
飯田は当然のような調子で、けれど言い聞かせるように柔らかく言ってみせた。

「大好きな友達に、もう友達じゃないって言われたら、そりゃ・・・泣いちゃうんじゃないかな」

するりと耳に入ってきたその言葉を、横尾はゆっくりと噛み締めるように受け止める。
飯田はそれ以上何も言わずまた一つ表情だけで笑うと、手をかけたドアを改めて開ける。
そしてそこにいた人間に同意を求めるように小首を傾げてみせた。

「そう思わない?」

相手は唐突に振られたそれに一瞬面食らったような驚いた表情を見せつつも、その前の台詞がきちんと聞こえていたからか、軽くばつ悪そうに眉を下げた。

「・・・泣かないってーの。勝手に人を泣き虫キャラにしないでー」

聞き慣れたふざけた調子。
けれど未だソファーに起きあがったままで動けずにいた横尾は、瞬き一つせずにそちらを見ていた。
すると大きな瞳が一瞬だけこちらを見て、再び飯田の方を見た。

「入ってもいい?」
「どうぞ。俺出てるから」
「ん、ありがと」

そうしてそのまま飯田が出て行ってしまい、それと入れ替わりに入ってきた姿。
ドアが閉まる音と共に、その場でじっと横尾を見つめるその姿。
けれど横尾が固まったように自分を見るだけで何も言わないから、軽く視線を落としがちに近づいてくるその姿。

「・・・なにやってんの、お前」

横尾は思わず掠れた声で呟いていた。
さして力もないような声だったけれども、その歩みを止めるには十分で。
何か躊躇うように長い睫が瞬くのが横尾からも見えた。

「なんか、用?」

言葉だけを取れば冷たくも聞こえる言葉だ。
けれど横尾もその真意が気になってどうしようもない。

「あのさ、おれ、」

結局それ以上の距離を縮められぬまま、河合は辿々しく喋り始める。

「結局・・・あの、五関くんと・・・」
「・・・ああ、上手くいったんだろ?見ればわかる」
「うん・・・」
「まぁ・・・よかったじゃん?」

それこそ嫌味などでは決してなく、本当に思ったことだ。
せめて相手は報われたのだから。
ただ自分が今言ってもそれは単なる強がりにしか聞こえないことくらい、痛い程わかってもいたけれど。

「うん、よかった・・・」

こくんと馬鹿正直に頷くその様。
思わず苦笑しそうになった。
こういうところが本当に憎めない。
横尾からしてみれば五関の行動は遅いとしか言いようがないし、言いたいことも正直色々ある。
けれどたとえ何があっても、どれだけ傷ついても、傷つけても、苦しんでも、それでも貫き通したその一途な想いが報われたことは純粋によかったと思える。

「・・・うん、ほんとによかった」

そして自分は、せめてこうして顔を見て喋って貰えただけでもホッとするべきなのだと横尾は思った。
けれど相手の安堵の言葉に更に続いた言葉には、思わず眉根を寄せるしかなかった。

「でも・・・ごめん、横尾」
「・・・・・・なにがだよ」

何故自分に謝る。
むしろ謝らなければならないのは自分なのに。
その謝罪の言葉が、自らに向けられる応えられない想いへのそれなのだとしたら余計だ。
世の中にはどうにもならないものなど沢山あって、いちいち気にしていたらキリがない。
それこそ、自分のせいではないことなんてなおのこと。
河合らしいと言えばそうだが、人が良すぎるのもいい加減考えものだ。

けれどそんな風に横尾が苦々しく思うのを後目に、河合はゆっくりと顔を上げた。

「俺、お前にひどいこと言いにきたんだ・・・」
「ひどい、こと・・・?」
「うん。ひどいこと」
「・・・なにそれ。こっえーの・・・」

さして笑えもせず言葉尻だけで茶化してはみても、目の前の瞳は真っ直ぐに自分を見ているのだ。
横尾は思わず目を逸らしたくなった。

その瞳は本当にずるい。
報われないとわかっているのに、それでも離れることを辛いと思わせる瞳なのだ。
まるで自分を唯一であるかのように錯覚させる、そんな一等星の輝きがある。
それでもお前が必要なのだと、そう言われているように思いこんでしまう、そんな一途な瞳だ。
だからこそ、いまさらその瞳に向けられるものに、どんな酷いことなどあるだろう。
もう怖いものなんて、それを本当の意味で失う以外ありえないのに。

「じゃあ・・・そのひどいことっての、言ってみろよ」

せめてと視線を真っ直ぐに返して頷いてみせた。

河合はそれに再び歩みを進めてゆっくりと近づいてくる。
そしてソファーに座った状態の横尾のすぐ目の前まで来るとぴたりと足を止め、不意に両手を伸ばした。
何をと横尾が言う間もなく、その小柄な二つの手が横尾の大きな手を掴む。
その手に込められた強い力。
まるであの時、横尾にベッドに押さえつけられながらも必死にしがみついてきたのと同じような、離されない手。
それでも掴まれた手。

「これからも、友達でいて」

横尾は咄嗟に言葉を紡げず、ただ目を見開いて河合を凝視するだけだ。

「お願いだから、ずっと友達でいて」

何度も何度も繰り返す。
一言紡ぐ度にその手の力は増していく。
そしてそれでもその瞳は変わらない。
どうしてだろう。
どうして今も同じように自分を見ているのだろう。
横尾はそれがなんだか不思議で、上手く言葉が出てこなくて。
掠れた声で呟くしかなかった。

「それが、ひどいこと?」

何を言ってるんだろう、こいつは。
そうとしか言えなかった。
けれどそれでも河合の目は真剣だった。
必死だった。
あの時と同じように、それでも必死だった。
あの時壊れそうなものを繋ぎとめようとしていたように、今壊れたと思っていたものを再び元に戻そうとしている。

「たぶん、ひどいと思う・・・。だって俺のわがままだから」

河合はきゅっと唇を引き結んで緩く頷く。

確かに、恋愛感情を向けてきた相手に向かって「友達でいて」と言うのは、場合によっては残酷なことであるかもしれない。
事実あの時、ベッドに押さえつけた状態で、大事な友達なんだと、だから止めてくれと、そう言われた時は横尾もそう思った。
けれどそれは自分の想いには決して応えられない罪悪感からなのだと、それを宥める言葉でしかないと感じられたからだ。
でも今は違う。

「俺、五関くんのこと好きで、ほんとに大好きで・・・でもお前のこともやっぱ好きなんだ。五関くんとは種類が違うけど、大好きなんだ・・・大好きな友達なんだ」

相手を思いやってとか、相手を宥めようとか、罪悪感からとか、そんなものじゃない。
河合が自分に向けてくれるものはそんなものじゃなかったんだと。
どうしていまさら気付くんだろう。
守りたいとか幸せにしたいとか、そんなある種一方的なことばかり考えていたからだろうか。
河合が自分に向けてくれているものにようやく気づいた。
それは確かに恋ではなかった。
けれどとてもとても大事なもの。

「ずっと友達でいたい・・・。お前とずっとずっと、ずっと、友達でいたいよっ・・・」

河合は両方の手で握り締めた横尾の手をぎゅっと額に押し付けて、搾り出すように言う。
必死すぎて声が裏返っている。

「・・・っは、・・・おま、ばか」

思わずそう返すしかなかった。

「マジ、必死すぎだから・・・」

これではまるで愛の告白だ。
そんな風にいつも必死で一途だから、勘違いする奴が出てくるんだって。
横尾は握られたのとは逆の手を緩く伸ばし、柔らかな茶の髪をそっと撫でた。

「そういうのはあの人にだけにしろよ。勘違いされるから。・・・わかったから」

その手の感触に、河合はじっと上目で窺うように見つめてくる。

「・・・じゃあ、絶交、なし?」
「ぶっ・・・ばか!だーれが絶交だなんて言ったんだよ!」
「だ、だってさあー・・・」

しょぼくれたようなその表情に更に笑ってやる。
むしろされるなら自分だと思っていた。
もうされたものとも思っていた。
横尾はそんな言葉を飲み込んで、河合の柔らかな髪を今度はぐしゃぐしゃとかき回す。

「それに・・・ダチってのはさー、お願いしてなるもんじゃないし?」
「まぁ・・・そうかなぁ」
「まー、お前の恋の相談に乗ってやれるのなんて、俺くらいだし?」
「・・・乗ってくれんの?」
「つか、どうせやだって言っても言うだろ」
「うーん・・・そうかも?」
「ほらみろ」

顔を見合わせて笑い合う。
ついこの前まであったことを思えば、それはまるでテンプレのような会話にも思えた。
けれどこうしてどこかくすぐったい気持ちでお互いの関係を確認できて、それを大事だと思えるのなら、これもすぐまた日常の大切な一コマに変わるだろう。

「なぁ、河合」
「ん?」

撫でていた手をいったん離し、改めて河合の頭を抱き寄せる。
もはや抵抗もなく引き寄せられた身体に抱く愛しい気持ちは、きっと普遍だろうけれど。
その愛しさは彼とはまた違う形にできる。
もう、それは見つけている。

「俺たち、ずっと友達だよ」

抱きしめた身体が大きく頷いて、ぎゅっと抱き返された。















部屋の外、壁にもたれかかってぼんやりしていた飯田の元に、廊下の向こうからなんだか楽しげな声がかかった。

「なにお前、締め出されたの?」

はたとそちらを見れば、見慣れた童顔。
そしてその隣には見慣れた前髪。
北山と藤ヶ谷が戻ってきたところだった。

「んー、ちょっとね」
「ちょっと修羅場?」
「別に修羅場ってわけじゃないよ」

肩を竦めてそんなことを言えば、その隣にいた藤ヶ谷からは何か含むように笑われた。

「飯田もいい加減面倒見いいよなー」
「えー・・・そうなのかなぁ」
「まぁあんまそう思ってないのが飯田っぽいけど」

そんな藤ヶ谷の隣で、北山は呆れたように両手を上げてちらりとドアの方に視線をやる。

「べっつに、あんなの適当にグダグダさせときゃいーのに」

あー早く着替えたいんだけどなー俺ー、なんて北山はこれみよがしに言う。
けれどそれには、藤ヶ谷が横目で意地の悪い笑みを浮かべてみせた。

「そんなこと言ってさー、自分が一番お節介焼いたくせに」
「・・・はぁー?なに?なんのこと?藤ヶ谷くんもうボケたー?」
「俺知ってんだからねー」

二人のやりとりに飯田はきょとんと不思議そうな顔をする。

「なになに?なんのこと?」
「飯田聞いてよー。こいつさーこないだ俺とのご飯の約束蹴ってさー」
「ええーまじで?」
「ちょ、おい藤ヶ谷!言うなよ!だからそれは今度埋め合わせするって言ってんだろ!」

少し焦った様子を見せる北山がなんだか面白いものに見えて、飯田は珍しく興味津々な様子で藤ヶ谷を見る。
藤ヶ谷はその視線に応えるように楽しげに北山を指差してみせた。

「北山さ、こないだ河合にご飯奢ってあげたらしいんだよねー」
「河合に?・・・へ〜〜」

一瞬驚いたような様子を見せてから、飯田はまじまじと北山を見る。
それになんだか居心地の悪そうな様子を見せながら北山はじろり睨み返す。

「・・・なんだよ」
「いやー・・・一瞬さ、変なこと考えた」
「変なことってなんだよ・・・」
「五関くんと横尾さんに続いて、北山まで河合?とか思ってー」
「ばっ・・・!」
「河合、さりげに本気でモテてんだな〜って」
「ちょ、ま、おまっっ・・・!!」

北山はあまりの台詞に絶句する。
けれどそんな北山を後目に、藤ヶ谷はわざとらしく眉を下げて乗ってみせる。

「ね〜?俺も一瞬さ、もう振られちゃったかと思ったんだよ〜」
「だよね?藤ヶ谷ショックだったよね〜?」
「まじでまじで。俺泣くかと思ったもん」
「マジじゃねーよお前ら死ね!誰があんなバカ!つーか藤ヶ谷お前ふざけてんだろ!」
「えー?ふざけてないって!・・・たださぁ」
「なんだよ!」

ああ、ここはここで相変わらず仲がいいな、と飯田は思わず微笑ましげに二人を見やる。

「仲間のごたごたに首突っ込まずにはいられない北山って、ちょっとかっこいいなーと思っただけ」
「・・・・・・やっぱふざけてんな?」
「素直に受け取ればいいのに。ね?飯田?」
「あはは、北山っぽいけどね」

ずっとこうやってみんなで笑いあえればいい。
飯田はそう思った。
だから今日はひとまず、みんなでこれからご飯を食べに行こう、そうも思った。










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(2007.5.14)






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