『綺麗なお姉さんは、好きですか?』
好き!好きに決まってるやん。
そんでもっておっぱいもでかかったら最高や。
ちなみに俺の好みのタイプは杉本彩さん。
ああいう人に一度でいいからお願いしたいわ。
『綺麗なお兄さんは、好きですか?』
アホか!なんで男やねん。
いくら綺麗言うても所詮男やで?好きもクソもあるかいな。
どんな顔してようと、所詮おっぱいはないし、言うたら俺と同じモンついてんねんから。
俺は至って健全な成人男子やねん。そういう趣味はない。
・・・・・・ないはず、やってんけどなぁ。
青春アワー 1
『ぁ・・・あん、りょお・・・』
掠れたような嬌声、舌足らずに俺の名を呼ぶ甘い声。
『なぁ、なぁ・・・おれ、も、むりぃ・・・』
普段俺をからかってばかりのそれがまるで蜜のようにねっとりと甘く俺に囁き、縋りついてくる。
『なんや、もう限界なん?・・・もうちょっと我慢してや?』
なんだかめっちゃかっこつけた低い声でそう言うと。
『や、やぁ・・・はよ、してやぁ、りょお・・・』
切なげに眉根を寄せ、俺の首筋に両腕を廻して擦り寄ってくる。
いつものこの人にはありえない程素直で甘えた仕草。
『・・・めっちゃエロい顔してる。気持ちええの?』
顎を掴んで覗き込むと、
切れ長の瞳を今にも涙がこぼれ落ちそうな程潤ませてこくんと頷いた。
『もっと、気持ちようして・・・りょお』
ありえない程やらしい身体にやらしい仕草、そしてやらしい表情。
でもこんなのもたまにはいい。
いや、むしろこんな可愛くて色っぽくてやらしいのは大歓迎だ。
その妙に柔らかで手触りのいい身体を片手でぐっと引き寄せて、低く囁いてやった。
『ええよ、いっぱいしたる。・・・愛してんで、侯隆』
あかん、決まったわ。
めっちゃイケてる、俺。
「・・・・・・あれ?」
目覚めると、俺はファンの子にもらったキャラクターものの抱き枕を
片手に抱き寄せたままベッドから半分落ちていた。
あの手触りのいい身体も、甘い声も、やらしい表情も、どこにも見当たらない。
落っこちていた下半身をベッドの上に引き上げて乱れたベッドに転がり、
抱き枕を両手で抱きしめてみる。
するとカーテンの隙間から僅かに差し込んでくる光。
もう朝だ。
「うわっ・・・」
そこでようやく気づく。
下半身の異常。
いや、異常というよりかはむしろ自然な生理現象だけど。
下半身に感じる慣れた感覚からだいたいの想像はつきつつ、俺は恐る恐るハーフパンツの中の自分自身に朝のご機嫌伺いをしてみた。
「・・・・・・うーわ、なんや俺・・・。なにこれ、すげ」
それはもう、ものの見事にばっちり反応していた。
いつも以上の元気さで何よりやわ。
・・・ちゅーかなんでこんなに元気になってんねん。
そこで思い出す、さっき見ていた夢。
その真っ白な肌を薄赤く染めて、俺の与える快感に身を捩る姿。
しどけなく開いた赤い唇に吸い付くようにくちづければ、甘い蜜のような声を漏らす・・・。
「めっちゃ色っぽかった・・・」
抱き枕をまるで彼に見立てたように、愛しさを込めて抱きしめる。
真っ白なキャラクターものの・・・正確に言えばゴマちゃんの抱き枕。
その白さだけならあの人に感じられへんこともない・・・すべすべしとるし・・・。
「・・・・・・・・・あかん、俺めっちゃさぶいわ」
はたと我に返って起き上がる。
抱き枕は適当に放り投げた。
ぐしゃぐしゃと頭をかいて、小さくため息をひとつ。
「横山くん・・・」
事務所の先輩。
同じグループの仲間。
昔から俺の面倒をよく見てくれた人。
綺麗な顔をしているくせに、あまりそれを感じさせないくらい騒がしい人。
いい加減に見えて、実はとても頼りになる人。
でもどうにも危なっかしくて、妙に庇護欲を駆り立てる人。
猫みたいに気まぐれでマイペース、そしてどうしようもなく寂しがりで甘ったれ。
俺は物心ついた時にはこの世界にいた。
そして物心ついた時には、既にあの人しか見えなかった。
片思い歴、早云年。
昔は淡い恋心程度だったそれも、今やれっきとした熱い恋情に変わっていて。
恐らく人並み以上に性欲の強い俺は一応それなりに経験もしていたけど、誰より恋しいあの人は抱くどころか、未だ想いの一つも告げられず。
こうして日々夢の中でその欲を僅かに満たしていた。
夢の中のあの人は俺の思うがままだ。
普段人をからかうような口ぶりもなりを潜め、ひたすらに俺を受け入れ、求めてくれる。
所詮妄想だと判ってはいる。
判ってはいるけども・・・。
「・・・しゃあないやん。これしかできんねん。これくらい許してや」
朝から辛気くさいため息をつきつつふらりとベッドから立ち上がり、俺は朝の処理をするためにトイレに向かったのだった。
雑誌の撮影のためにスタジオに行ったら、真っ先にあの人発見。
向こうの椅子に座って村上くんやすばるくんと何やら雑談しているようだった。
こちらには気付いていない。
でも他のメンバーならともかく、あの二人相手じゃ割って入るのはちょっと憚られる。
もちろん歓迎はされるだろうけど、何となく気が引ける。
あの三人は昔から本当に仲が良いから。
仕方なしに俺は少し離れたところからあの人を眺めた。
その膝の上にはポテトチップスの袋がひとつ。
バリバリと頬張る姿は子供のようだ。
あの人は菓子類が大好きで、暇さえあれば食べている。
だから太るねん・・・と思うけど、あんなにむやみやたらに食べる割には
あの体型を気にしてるようなので言わない。
意外と傷つきやすいし。
それになにより、あのぽっちゃりした肌触りが堪らないので俺には無問題だ。
「あー・・・触りたい・・・」
「亮ちゃん」
「ふにふにやねんな・・・」
「なぁ亮ちゃん」
「噛んだら痕つくかな・・・」
「亮ちゃーんっ」
「うおっ!なんやねんお前・・・!」
はたと気付いたら、横にでっかい奴が。
いつでもボケボケと眠そうな顔と声のそいつは、
若干呆れたような調子で俺と横山くんを交互に見ていた。
「なにて。声に出とるし。朝っぱらからめっちゃはずいわ亮ちゃん」
なんや聞いとったんか・・・。
「ほっとけ。朝の日課やねん」
「視姦するんが?」
「しっ・・・!おま、なんちゅーこと言うねん!」
「やって横山くん見とる時の亮ちゃんの顔、ありえへんで。エロエロ星人やー」
「お前に言われたないわボケ」
「俺は至って健全やもん。ちゃんと本人相手にやるもん」
「・・・めっちゃむかつく」
「むかつかんといて。自分と違って俺が幸せやからって」
「殺すぞお前」
ぎろりと睨みつけてやっても、のらりくらりとかわされる。
年下のくせに生意気な。
だいたいからしてそのでっかい身体も生意気やねん。
何より、俺が横山くんに片思いしてることをこいつが知ってることがむかつく!
でも俺がそんな射殺さんばかりの勢いで睨んでいるのにも涼しい顔をしているかと思ったら、唐突にその顔がデレデレと崩れ去った。
「あ、やっさぁ〜ん」
どっから出てんねんその猫撫で声!きっしょい!
大倉がすっ飛んでいった方を見やると、ちっこい身体がひょこひょことやってきた。
溶けんばかりの笑顔を大倉が向けるのに、負けずに愛らしい笑顔を返している。
「あー亮ー。おはよーさん」
「・・・おはよ」
「ん?なんや機嫌悪いなぁ?なんかあったん?」
たった挨拶一言で、目敏く気付かれた。
周りを気遣うことに長けた優しい親友は、少し心配げに俺を覗き込んでくる。
「あー、そこにおるでっかいのにいじめられた」
「たっちょんに?」
「あ、ちょっとちょっと亮ちゃん。やっさんに変なこと吹き込まんで」
「事実やろ。ふざけんなお前」
「やって亮ちゃんが朝からあんまりな顔しとるから」
「うっさいほっとけ」
「んんん?どういうこと?」
ヤスは俺と大倉を交互に見上げて不思議そうな顔をする。
それに大倉が楽しげに俺を指さす。
・・・ほんましばくぞコラ!
「あんなー亮ちゃんがな、」
「黙れ大倉。それ以上言うな」
「・・・んと、・・・横山くんのこと?」
「あーそうそう」
「・・・いつものことやねん」
なんでこのでかいのはこない無神経やねん。
別に俺に気とか使われてもきしょいけど。
せめて放っとけや。
ムカムカしつつぼそりと呟いて頷くと、ヤスは曖昧に笑いながら
こくんと頷き返した。
「そっか」
たったそれだけ。
そうして俺の肩をぽんぽんと叩くだけ。
ヤスはそれ以上何も言わない。
もう随分前から俺の愚痴とも弱音ともつかないような言葉を
ただ黙って聞いてくれている親友。
言えない苦しさを少しでも和らげてくれる。
俺にとっては随分とありがたい存在。
・・・ただ唯一難点を言えば、その恋人にまで俺の気持ちが伝わってしまったことか。
「亮ちゃーん」
悪意はなく、ただ単なる好奇心と天然と野生のカン的なもので毎回俺の思考を言い当てる、この鬱陶しいことこの上ないでかい男。
このことに関してこいつの言うことはロクなことがない。
「・・・なんやねん」
「あんな、横山くん、亮ちゃん待っとったで」
「・・・はぁっ?」
「亮ちゃんが来たら呼んでくれて言われとってん」
「はよ言えやお前!」
「やって言う隙なかった」
何よりも先にそれを言え!
そうしたら、俺は空しく視か・・・・・・やなくて、黙って見とったりせんかったし!
そんなら普通にあそこに割って入れたっちゅーことやんか。
ああほんまこのボンクラむかつくわ・・・。
俺は聞こえるように舌打ちしてやりながら、横山くんたちの方へ向かった。
「・・・たっちょん?」
「ん?なに?」
「あんま亮からかったらあかんて」
「別にからかっとるわけやないけどな」
「あかんて。アレで結構思い詰めとんねんから」
「せやから少し吐き出した方がええねん。あの人不健全やねんもん」
「ううーん・・・」
三人が談笑しているのにそろりと近づくと、
真っ先に気付いたのは村上くんだった。
続いてすばるくんも雑誌から顔を上げる。
「おっ亮おはよ」
「おはよー」
「はよっす」
そして肝心の横山くんは、
何やら眠いのか小さく欠伸をかみ殺していた。
何度も目を擦ってから、緩く俺に笑いかけてきた。
その笑顔が俺より年上には見えなくて。
「はよー」
「・・・はよっす」
子供みたいな人やわほんま。
・・・そうして内心で顔を崩しつつ、俺はさりげなさを
頑張って装いながら軽く訊ねてみた。
「なんや大倉に呼ばれとるって聞いたんすけど」
「あーそうそう、あんな、今日仕事終わりにおまえんち寄っても、ええ?」
「えっ・・・」
向こうは椅子に座っているから、その目線は自然と上目遣いになる。
嫌やこの人はほんま・・・そんなんで「ええ?」って言われても・・・。
言われても・・・・・・ええに決まっとるし。なんでも来いやわ。
「も、もちろんっすよ!・・・や、でもうち何もないけど」
やばい、ちょっと動揺した。どもってもた。
それを誤魔化すみたいに最後付け加えてみたけど、どうだろう。
ちらりとさりげなく村上くんとすばるくんを見ると、二人は二人で何やら別のことを話しているようだったから少し安心した。
それから改めて横山くんを見ると、横山くんは嬉しそうに笑って頷いた。
「よしっ。じゃあ今日行くなー」
「あーあの、ちなみに、なんで?」
「あんな、おまえがこの前買うた言うてたあのDVD、見してほしいねん」
「・・・ああ、アレか」
それは横山くんが見たい言っていたアーティストのライブDVD。
買うと言いつつまだなのは知っていた。
・・・実は、だから買ったっていうのが本当だったりする。
それを貸すか、あわよくば一緒に見たり・・・とか・・・まぁ色々考えて・・・な。
「そういやおまえんち行くのって、めっちゃ久しぶりやな〜。もう何年ぶりやろ」
至極楽しそうにそう言われた。
そうだ。
随分長い付き合いとは言え、この人がうちに来たのなんてもう何年も前の話だ。
しかもその時はまだ自分の気持ちなんて自覚出来ていなかった。
「そうっすね。まだ俺が子供の頃やないですか?」
「なーに言うてんねん。亮ちゃんはまだまだかわええ子供やで」
「・・・もう二十歳っすよ」
伸びてきた白い手が俺の頭を撫でた。
さすがにこの歳でそれは屈辱だった。
いつものことは言え、いい加減この子供扱いもどうなのか。
可愛がって貰えるのは嬉しいけれど、やはり好きな人には少しでも大人の男として見て欲しいと思うわけで・・・。
自然と眉根が寄る俺に、彼はおかしそうにきゃらきゃらと特有の高い声で笑いながら、小首を傾げて覗き込んでくる。
これが曲者。
大人が子供にする仕草で、そのくせ子供のような表情を俺に見せる。
「まぁ怒んなってー。亮ちゃんも大人になったんやな。随分おっきなったしな。
判っとる判っとる。AVかて見てまうもんな。家にもぎょーさんあんねんなー?」
「チッ。鬱陶しいわこの人・・・」
「DVD見たら、そっちも見るかー?おれ、おまえがどんなん見てるか気になる」
「見るわけないでしょ。人の性癖はほっといてください」
「セーヘキやて!亮ちゃんがセーヘキ言うたで!ますます気になるわ」
「ええからほっとけ言うてるでしょ!」
そんなんしたら、俺我慢できる自信ないわ。
いまさら家にあるAVなんて見飽きてるから大してクるもんはないけど。
でも一応男の生理現象というものはちゃんと沸き起こしてくれるわけで。
そんな状態の時にこの人に傍にいられたら、正直困る。
もちろん黙って俺に組み敷かれるような人ではことはよく判っている。
むしろどんな反撃に遭うか判ったもんじゃない。
悔しいことに、一応まだ体格的には負けているんだし。
でも火事場の馬鹿力ってことも考えられる。
自慢じゃないが、そういうのには自信がある。
だからこそ、出来るだけ一緒にはいたいけど、その微妙なラインを保つのに俺はいつも苦心していた。
「じゃー楽しみにしてるわ。酒とツマミ買ってこなー?」
「はいはい。ええけど、あんま酔って散らかさんといてくださいよ」
「どうせおまえの部屋なんぞ元から汚れきっとるやろ。想像つくわ」
「それは・・・でも、昔よりはマシっすよ」
「どーだか?ま、何ならこの裕にーさんが片づけたるわ」
「・・・結構です」
「なんやねんおまえ冷たいぞ」
せやから変なもんでも見つかったら困るやろ!
頼むから勘弁してくれこの人。
あんたなんて、自分を狙っとる狼の家にのこのこやってくる兎と同じやねんから。
昔から成体やった兎は可愛がってきた子犬がいつの間にか狼に成長しとることを知らんねんから。
この人が来た時のシミュレーションをしては黙り込む俺を後目に、横山くんはアホみたいに無邪気に村上くんとすばるくんに話しかけていた。
「なぁ、俺今日錦戸んちに遊びにいくねんで」
「おっええなぁ〜。俺も行きたい」
「すばるはあかん」
「なんでやねん!」
「おまえすぐ人んち汚すやん」
「人のこと言えんのか。だいたい、亮んちなんて元から汚れとるて今言うたやん」
「せやけど、おまえのはひどいやん。本人が汚すんならともかく、おまえはあかんで」
「そういうお前はすぐ酔っぱらって亮に迷惑かけんねんやろ、どうせ。なぁヒナ」
「あっおまえそうやってすぐヒナに言いつけよって!」
「まぁまぁヨコ、あんま飲み過ぎて帰れんようになったらあかんで?」
「・・・わーっとるし。そんなアホやあらへんし」
「お前はアホやで!」
「うっさいすばる!」
「お前ら二人ともアホやしうるさいわ・・・」
いつものようなやりとりと喧噪。
村上くんは苦笑しつつ、ちらりと俺を見た。
ヨコのことよろしくな、そんな声が聞こえそうな穏やかな笑顔。
けれどそんな表情のまま、俺にだけ聞こえるように小さく呟かれた言葉は。
「・・・くれぐれも、暴走はせんようにな?」
俺は一瞬硬直した。
何も言葉を返せずにいると、すぐさま村上くんは視線を二人に戻してしまった。
今のは牽制?それとも警告?いや、忠告ととるべきなのか。
村上くんに気付かれているだろうことは薄々気付いていた。
ヤス同様に聡い人だから。
そしてヤスよりもずっと読めない人だから。
ただ彼が横山くんを大事にしているのは十分すぎる程に知っている。
恋人であるすばるくんとはまた違った意味で大切にしているのはよく判っている。
不用意に傷つけようものなら滅多に見れない怒りに触れそうだ。
「言われんでも・・・」
ようやく絞り出した言葉はきっと誰にも聞こえなかった。
暴走なんてしたくない。
そうなった時、きっと俺は凶器みたいなこの想いで彼を傷つけてしまう気がしたから。
でも膨れ上がる気持ちは抑えようがなくて。
夢の中で散々してきたことを、現実のこの人にしてしまう日を恐れた。
同時に、強く望んだ。
未だすばるくんと言い合っている横山くんをちらりと見る。
愛しいその白い肌に唇を押し当て、赤い痕を刻みつけることを想像して。
俺は我知らず小さく唾を飲み込んだ。
さっきしてみたシミュレーションなんて、たぶん何の役にも立たないだろう。
ああ、後先考えないのが青春だとはよく言ったものだ。
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(2005.5.14)
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