ねえ、誰か助けて。










レイニーラブソング 10










亮ちゃんとこうして東京に仕事に来るようになって、何ヶ月経っただろうか。
それ以前にだって何度もあったことではあるけれど、その時はいつだって年上の先輩達がいたから。・・・横山くんがいたから。
最初に社長から二人でNEWSに入りなさいと言われた時には、正直不安だった。
その一つの要因が横山くんがいないことでもあった。
そのくらい、俺達にとって横山くんの存在は大きかった。
関西で活動する人間にとって彼は一つの精神的支柱のようなところがあったから。
横山くんと同期の村上くんやすばるくんは俺の知るところではないけれど、なんとなく彼らにも少なからずそんな空気は感じていた。
そして逆に亮ちゃんなんかは誰よりもそうで。
まだ亮ちゃんがひどく幼く可愛らしい容姿をしていた時代から、言葉にはせずとも絶大な信頼を寄せていた。
だからこそ、横山くんなしで、俺と亮ちゃんの二人で東京に通って関ジャニ∞とは違うグループで仕事をするなんて、果たしてできるんだろうかと思っていた。
そしてその不安は、今まさに的中したと言えるのかもしれない。

俺自身はそれなりに上手くやれるようになってきたような気もしていた。
けれど亮ちゃんはダメだった。
いや、ダメじゃない。決してダメなんかじゃないはずなんだ。
仕事の面では問題ない。
懸念されていた東京と関西の空気の違いなんかも、むしろ個性として上手いこといっているように思う。
そして人間関係だって、他のメンバーはみんな俺達のことを受け入れてくれてる。
同じグループのメンバーとして絆を作ろうとしてくれてる。
ただ、亮ちゃんだけがそれを頑なに受け入れようとしない。

どうしてだろう。
どうして亮ちゃんは彼らを受け入れようとしないんだろう。
決して嫌っているわけではないことは判る。
確かに最初は「東京のお綺麗な奴ら」と吐き捨てるように言っていたこともあったけど。
彼らの根がとても素直で真っ直ぐで、憎めない奴らだと判って、そんなトゲトゲした空気もすぐに払拭できていたと思うのに。
俺と比べて人見知りが激しい亮ちゃんだから、すぐに馴染むのは無理でも、時間をかければちゃんと上手くいくだろうと思っていたのに。
どうしてか、最後の最後で受け入れようとしない。
もう受け入れる準備はできているのに、まるで亮ちゃんが敢えてそれを拒んでいるみたいな。
だとしたら、一体何が亮ちゃんにそれを拒ませるのか。
亮ちゃんに一体何があったのか。

それを知ることこそが今一番大事なことなんじゃないかと思う。
知ったところで解決できるかどうかなんて正直判らないし、俺にできることなんてあるのかさえ怪しいけれど。
少なくとも、今横山くんに頼れない・・・横山くんと亮ちゃんの間にあるものを歪める原因すらも、そこにあるとしたら。
俺はそれを知りたいと思う。
知って、・・・知って、亮ちゃんを、助けてあげたいと、思う。



「はぁ・・・」

我知らず溜息をつく。
収録の合間の楽屋で、俺は椅子に座って雑誌に視線を落としながらも、記事の内容なんて全く頭に入ってはいなかった。
むしろそれはさっきから疲れた様子でソファーに転がる亮ちゃんを、気付かれないように気にするためのフリでしかなかったんだから。
けれどチラリとそちらを盗み見て、また一つ溜息。
ちょうど俺ら二人しかいない静かな楽屋にそれは思うより大きく響いた。
けれど幸いにも気付かれることはなかった。
さっきから特に何をするでもなく寝転がってぼうっとしているかと思ったら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
見れば瞼は閉じられて、そうすれば長い睫がよく判る。
幼く頼りない寝顔。

前から空き時間なんかは眠っていることが多かったけれど、ここ最近は特にそうだ。
まるで起きていることが辛いとでも言うかのように。
目を開けている間の辛い出来事全てから逃げるように。

けれどそうやって眠る姿は、あの日の病室を思い出させるからなんとなく嫌だった。
亮ちゃんよりもずっと真っ白な顔で死んだように眠っていた顔。
横山くんは大丈夫だろうか。
最近東京での仕事が忙しくて全く会っていない。
最後に会ったのは彼が退院した後の収録一回だけだ。
その時はケガをした右肩を少し庇うようにはしていたものの、もう普段と変わりない様子だった。
もちろん無理をしているんだろうと、それは俺にだって推し量れることだったけれど。
今横山くんはどうしているだろうか。
傍目にはいつもと変わらずみんなを盛り上げて引っ張って笑っているだろうか。
それとも、やはり亮ちゃんのように眠ってばかりいるだろうか。

「・・・内ー、次もうすぐ出番だよ」
「あっ、・・・山ピー」

ゆっくりと、静かに開いた扉。
そして努めて抑えられた声。
それは亮ちゃんが眠っていることを既に予想していたかのような態度。
むしろ俺の方が咄嗟に上げてしまった声が大きかった気がして、慌てて掌で口を塞いだくらいだ。
そう言えば山ピーは俺よりもずっと昔から亮ちゃんと付き合いがあって、確か東京のメンツでは一番仲が良かったはず。
少し前俺と亮ちゃんが口論になった時だって、訊いてみるからとそう言っていた。
それをふと思い出して、なんとなく視線を逸らしがちに声をかけてみる。

「あ、あんな、山ピー・・・」
「うん?」
「あんな・・・あの、その、亮ちゃん、なんやけど・・・」
「んー・・・」

気のない返事。
ちゃんと聞いてや、と小声でそう言おうとしてそちらを見たら、山ピーはソファーの上で眠る亮ちゃんをじっと見つめていた。
小さく眉を下げて、何か物言いたげに。
意外と表情の変化の少ないタイプだから少しだけ驚いた。
思わずその横顔をじっと見つめてしまった俺の視線に気付いたからか、どうなのか。
視線は亮ちゃんに向けたままに、今度は向こうから言葉が返ってきた。

「横山くんさ、」
「え?」
「横山くん」
「ああ、うん・・・?」

なんでいきなり横山くんの話?
というよりか、山ピーがその名前を出すことが不思議でならなかった。
けれどそんな俺の怪訝そうな声に更に返ってきた言葉は、静かながら俺に息を飲ませるものだった。

「亮ちゃんを、壊しちゃったんだってさ」

あまりにも淡々とした響き。
けれど、そんな風に簡単に言える言葉じゃない。そんなもの。

口を何度か開いて閉じて、それをどう問い返したらいいのかと頭の中でグルグルと考える俺をチラッと見て、けれどすぐまた亮ちゃんに視線を戻して。
山ピーはまたあの淡々とした口調で続けた。

「詳しくは全然教えてくれなかったから、よくわかんないんだけど。
ていうか・・・別に俺に言ったつもりもなかったのかな、単に電話口で呟いただけって感じだったから」
「・・・それ、どういう、・・・・・・横山くんに、電話したん・・・?」

どうして山ピーが横山くんに電話をする必要なんてあるのか。
それはやはり亮ちゃんに絡むことなのか。
そうとしか考えられない。

「んー、正確には、最初は向こうからかかってきて。その後俺が毎日電話してるって感じかな」
「な、なんで・・・?」
「亮ちゃんの様子が気になってるみたい」
「そ・・・か、そっか・・・」

それは確かに納得できる話だった。
なんとか頷いた俺だったけど、問題はそんなところじゃないことにすぐ気付く。
そう、問題はさっきの台詞だ。

亮ちゃんを、壊した?

「山ピー・・・」
「ん?」
「山ピー、やま、ぴー・・・」
「なに?」
「壊した、って・・・壊したって・・・?」
「・・・だから、それは俺もよくわかんないよ」
「やって、そんな、亮ちゃんはここにおって、別に、普通に・・・」

普通に?
普通に仕事をして?
普通に話して?
・・・普通なんて、どこがだ。

喋っていても怒らなくなった。
皮肉を言わなくなった。
不機嫌そうに俺を見ることがなくなった。
寝てばかりいるようになった。
まるで生気のない人形のような。
あの溢れんばかりだった程の喜怒哀楽全てが抜け落ちてしまったように・・・いや、ただ一つ、気付けば哀しそうな顔で遠くを見ているだけの。
もう手の届かない何かをぼんやりと眺めるだけみたいな。
いつだってどんな困難だって、不敵に笑って乗り越えてきた。
自らの脆さ弱さを自覚した上で、それでも、這いずってでも、手に入れてきた。
そうしようと彼はいつだって歯を食いしばって努めてきた。
そんな彼は今どこにもいないのに。
そんな状態の、どこが普通だ。

「・・・横山くん?横山くんの、せいなん?」

いつの間にか震えてしまう声を押さえ込んで呟く。
それにはやはり淡々とした山ピーの声が返ってくる。

「俺は・・・それは違うと思うけどね」
「でも、横山くんが、本人がそう言うたんやろ?自分のせいやって、そんで亮ちゃん・・・ッ」
「内、静かに」
「やって、やって亮ちゃん、こんなにっ・・・」
「静かにしろ言うてるやろ」
「え・・・っ?」

山ピーの声で押さえられなかった俺を押さえたのは低めの声。
けれどいつものようにドスの利いたそれではなくて、なんだか力ない気がした。
見れば亮ちゃんが鬱陶しげに頭をかきながらソファーから起きあがるところだった。
俺は思わず息を飲んでそれを見る。
けれど山ピーは動じた様子もない。
むしろ当然くらいの様子でそれを眺めている。
・・・もしかして、最初から起きてた?それを、知ってた?

「内、アホなことぬかすな」
「りょ・・・亮、ちゃ、」
「あとピィも。・・・くだらんこと言うなや」

俺は咄嗟になんと言ったらいいのかまた判らなかったけれど、どちらにしろ亮ちゃんがその先を言わせてはくれなかった。
ソファーの上で片膝を立てて、乱れた髪を俯きがちにかき上げるとぽつんと呟く。

「ピィ・・・初耳やで、それ」
「うん、初めて言ったもん」

それ、とは。
たぶん山ピーが横山くんと電話連絡をとっているということ・・・?

山ピーの特に気にした様子もないような平然とした言葉に、亮ちゃんは無言で深く眉間に皺を寄せる。
そこには色濃い苦悩が布かれていて、山ピーとのやりとりが今の亮ちゃんには更なる負担になるような気がして、見ているだけでも気が気じゃなかった。
亮ちゃんは暫し考えるような仕草を見せてから、小さく目を伏せると低く言った。

「・・・・・・余計なこと、すんなや」

けれどそれには端的な、けれど強い返事が返ってきた。

「余計なことじゃないよ」
「・・・なに?」
「何もかも余計なことじゃない。
それは今の横山くんにたぶん、必要なことで・・・亮ちゃんのためには絶対に必要なことだと思うから」
「へぇ・・・なるほどなぁ。・・・ピィ?」

ふっと目を開けたかと思えば、唇の端を小さく歪めたその表情。
久しぶりに見た気がするそんな顔。
けれどそれはなんだか見ていると怖くなる、まるで手負いの獣のようなそれ。

「お前に何がわかんねん。何も知らんくせに」
「・・・うん、俺は何も知らないよ」
「やったら余計なこと、」
「何も知らないのは」

俺は目を見張った。
亮ちゃんの言葉を強く遮った、淡々とした言葉。
そして静かに音もなく近寄って、山ピーの腕は亮ちゃんの胸ぐらを掴み上げていた。

「俺が、みんなが何も知らないのは・・・亮ちゃんが何も言ってくれないからだろ」

まさか山ピーにそんなことをされるとは思っていなかったんだろう。
一瞬驚いたように息を飲んで、亮ちゃんは一際深く眉間に皺を寄せるとその腕を力任せに振り払おうとする。
けれど山ピーはそれを拒むように掴んだ手に力を込めたようだった。
その表情にも苦悩したような色が濃く出ていた。
俺は何もできずただそんな光景を呆然と見ることしかできない。

「ピィ、離せ」
「やだね」
「離せ言うてるやろ」
「いやだ」
「ちょ、ちょお、待って、やめてや、亮ちゃん、山ピー・・・」

狼狽えるように声をかけるしかできない自分が情けない。
自分は何のためにここまできた。
大倉に言ったじゃないか。
亮ちゃんには俺がついとくから。
亮ちゃんは俺がなんとかするから。

ふらりと二人に歩み寄ってなんとか止めようとする。
けれど亮ちゃんは胸ぐらを掴まれたまま俺をふと見上げると、言った。

「内、助けろや」

それはたぶん、自分の胸ぐらを掴んでいる山ピーをどうにかしろ、という意味だったんだろう。
けれど俺にはそうではなくて、もっと違う意味に聞こえて。
きっとそれは俺の都合のいい解釈でしかなくて、もっと言ってしまえば、恐らく自分の願望でしかなかった。

亮ちゃんに、助けてと、言って欲しかった。
そんなにボロボロになって、俺の知らないところでボロボロになって。
もうそんな姿を見ていたくなくて、自分に助けを求めて欲しくて。

たとえその心には横山くんしかないのだとしても。
全ての原因が横山くんにあるのだとしても。

そして、その何もかもが、横山くんにしか救えないのだとしても。


「亮ちゃん、亮ちゃん・・・っ」
「っ、ちょ、おいっ、内!なんやねんお前、ちょ・・・離せやっ!」

俺の手と足は勝手に動いていた。
一気に距離を詰めて、ソファーに座ったまま山ピーに胸ぐらを掴まれた亮ちゃんに両手を伸ばして。
山ピーから奪いとるように・・・その意味では亮ちゃんが言った意味でも助けただろう、けれどそのまま両腕で包むように抱き竦めた。
せめてこうすれば少しは癒せるのではないか、救えるのではないか、そんな詮無いことを思って。
亮ちゃんは力任せに暴れるみたいに俺の肩を強く叩くけれど、まだそのくらいの力が出せれば助けられるかもしれない、そんなことすら思いこんで。

「内!離せ言うてるやろお前っ・・・!」
「言うてや!」
「なっ・・・?」
「亮ちゃん、言うてやぁ・・・!」
「何をやねん・・・」
「なんで、なんでこんなんなってもーたん、どうすればええの?どうすれば亮ちゃんを助けられんの・・・っ?」
「・・・・・・何を、言うてんねん、お前は」
「いやや、もういやや、もう亮ちゃん傷ついて苦しんで、ボロボロになんのいやや、もういやや、亮ちゃん・・・」
「うち・・・」
「いややぁ・・・」

力任せに抱きしめた。
いつの間にか涙すらこぼれてた。
俺はこの前から泣いてばかりだ。
いや、昔から泣いてばかりだった。
泣けばいいと思ってる。
泣けば誰かが手を伸ばしてくれると思ってる。
助けたいと思って今手を伸ばしているのに、これじゃ逆だ。
でも、そうは思っても涙は止まらない。
どうか助けさせて。
どうか助けてと、俺に言って。

「・・・亮ちゃん、言って、いいし、言わなきゃ・・・だめだよ」
「ピィ・・・」

俺は亮ちゃんを抱きしめて肩口に顔を埋めているような状態だったから、その表情はよくは判らなかったけれど。
山ピーの声もどこか弱々しい気がした。
そんな声は初めて聞いた。

「みんな、心配してる。小山もまっすーもシゲも手越も草野も、俺も内も、エイトのみんなも、・・・・・・横山くんも」
「みんな・・・」

抱きしめた手に力を込めた。
そうしたら緩く、ほんの少しだけれど、腕を手でそっとさすられるような感触。

「うち・・・」

けれどその感触はすぐに止んでしまって。
代わりに掠れたような声が、けれど切に求めるような声が、した。

「よこやま、くん・・・」

半ば理解したこと。
それでも離せはしなかったけれど、それでも理解したこと。

どれだけ傷ついてボロボロになっても、あなたはあの人を求めるんだ。


深く息が漏れるのが聞こえた。
溜め込んだ何かを吐き出すように。
けれどそこから感じたのは、あまりにも哀しい、自嘲したような、絶望したような、そんな。

「・・・・・・お前ら、みんなアホやな」

顔を上げようとしたら、それを遮るように頭をぐしゃりと撫でられた。
その手の感触は強くない。
むしろ弱い。
本当に手を伸ばしたい先がどこであるのかなんて、もう判りきっているから。
心の中だけでごめんなさいと言った。
あの人でなくてごめんなさいと。
それでもやっぱり離せない。

「アホやで・・・。俺なんか、なぁ・・・助けようとして」
「・・・アホじゃないよ。みんな、亮ちゃんが好きだから助けたいんだよ」

山ピーの言葉は確かに真実だけれど。
真実が必ずしも胸に響くわけじゃない。
それは今どれだけ亮ちゃんに届いたんだろうか。

「お前らとなんか、仲良うせんとこう思っててんで」

たぶん、山ピーに向けられた言葉。
それは亮ちゃんがまだNEWS結成当時辺りまでよく言っていた調子。
東京のメンツに向けていた排他的なそれ。

「・・・仲良うしても、無駄やん。無駄やねん」
「なにが無駄?何も無駄なものなんてない」
「そうか?無駄やないと思うか?」
「思う」
「でもなぁ・・・俺は、無駄やって、言われた」
「え?」

俺はそれでも顔を上げられなかった。
亮ちゃんが頭を上から押さえつけてきたから。
まるで今の顔を見られたくないとでも言うかのように。
強く、せめて今込められる限界の力を出し切るように。
脆く痛い力で。

「事務所の幹部って人にな、言われてん。何回か見たことある程度の奴やったけど。呼び出されてな」
「え・・・」
「まぁ、東京の仕事がつまらんくて、ブーブー言うとったからな。説教でもされるんかと思っててんけどな、それどころやなかった」
「な、なに、を・・・?」

山ピーの言葉すら震える。
事務所の幹部?
誰だそれは。
まさかそんな単語が出てくるとは思わなかった。
そんなレベルの話なのか?

「このままNEWSが軌道に乗って、上手くいったら、俺は用済みやねんて」

人はショックが過ぎると、何一つとして反応できないのだと今知った。

「う、そだ・・・そんなこと、そんなことあるわけない・・・」
「元々、まだ慣れてない下の奴らが力つけて慣れてったら、もうええわ、ってな。
内はそんでもこっちの空気にも合うてるし、そのまんまやってってもええけど、俺は・・・・・・あかんねんて」
「うそだっ・・・社長・・・そうだ、社長は?社長には確かめたの?社長がそんなこと言うはずないっ・・・」
「・・・ほんなら、俺があの日、言われた言葉ってなんやねん。社長もそう言うてるって、いずれ俺は外す気やって」
「そんな・・・」

俺の思考は既に麻痺してしまっていた。
言っている意味が判らない。
NEWSが軌道に乗ったらもう用済み?
俺はええけど、って?何がええねん。
関西からも違う空気を入れて新しいグループを、って。
そう言うたんは誰やねん。
俺は、俺らは、関西のみんなと離れる辛さを精一杯我慢して東京まできた。
東京モンと一緒にやるのなんて嫌やて言いながら、それでもエイトのみんなが応援してくれるから、頑張った。
できるだけのことをしようと、こっちの奴らやってみんなええ奴ばっかやし、ここでしかできないことをしようと、血を吐く思いで頑張ってきた。

それに対する仕打ちが、これなんか?

「そないいらんなら、もうな、ええねん・・・」

俺の頭を上から強く押さえつけてくる力。脆く痛い力。
そしてそこに降り注ぐのは絶望したような哀しい声。

「ええねん・・・・・・もう、一人だけで・・・あの人さえ、いるって言うて、くれれば・・・」

ヒュッと息を飲んだ。
身体も大袈裟に反応してしまった気がする。

横山くんは、亮ちゃんが最初で最後に助けを求めた人。
他の誰に要らないと言われても、ただ一人あの人が必要だと言ってくれれば、それでいいと思った人。
だから横山くんにしか助けられない。
けれど、二人は引き離されてしまった。
横山くんは傷ついて。
亮ちゃんも傷ついて。
お互いに傷つけ合って?

横山くんは今ここにはいない。

じゃあ、じゃあ・・・・・・誰が?


「ああ、でも、そうや・・・」

山ピーすらもう何も言えないようだった。
いつの間にか掴まれた腕が痛い。

ごめん。
ごめんなさい。
横山くんじゃなくてごめんなさい。

だからそんな泣きそうな声、出さないで。

「もう、横山くんも・・・」

亮ちゃん、亮ちゃん、泣かないで。
泣きながら亮ちゃんを抱きしめて俺は願うしかできなかった。

「横山くん、会いたいなぁ・・・」

嗚咽の混じる声。
力任せに掴まれた腕の痛み。
横山くんは今ここにはいない。
俺には助けられない。

じゃあ、一体誰が、亮ちゃんを助けられる?

「会いたい、なぁ・・・」

誰か助けて。
誰か亮ちゃんを助けて。

ねぇ、横山くん、亮ちゃんを助けて。










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(2006.9.3)






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